ポンコツ大学生が税理士試験を受験するらしい

地方の大学生。5000兆円欲しい。人生はつらい。

公教育は誰のためにあるべきか―「大学入試改革 海外と日本の現場から」を読んで

 誰でも「一言モノ申したい!」と思うテーマは「教育」と「政治」

 ブログを書けと脅迫されました。書きます。

 今日紹介する本は大学入試改革 海外と日本の現場から 読売教育部(2016)です。

 

 

 

大学入試改革 - 海外と日本の現場から

大学入試改革 - 海外と日本の現場から

 

  誰しもが義務教育を受けている(はず)なので、教育を受けた経験から一人一人が異なる「俺の/私の教育論」というのを持っており、今の教育は間違っている!素晴らしき理想の教育について語りたい!みたいな人は結構いると思うんですが、2020年から大学入試が変わるということでこれから子どもが入試を控える予定の方にぜひ読んでいただきたいのがこの本です。

 

本の内容をざっくりと

  1. 世界が注目するアメリカの入試
  2. アジアでの多面的な入試の実例
  3. 2020年、日本の入試が変わる
  4. 現場から始まる改革

世界が注目するアメリカの入試

  • 共通テスト(日本でいうところのセンター試験ですね)の元祖であるSATについて
  • 高校での学習や課外活動を重視する
  • 大学側が目指すのは多様性の確保
  • 大学入学後に伸びそうな生徒を取りたい、そのような生徒が高く評価される

アジアでの多面的な入試の実例

  • アジアでは科挙の影響から、中国・韓国・台湾・日本のいずれの国も筆記試験による選抜が重視されてきた
  • 台湾の難関大学での評価基準の多様化
  • 地方と都市部の格差を解消しようとする取り組み(繁星推薦)*1
  • 受験戦争が日本よりも激しいとされる韓国でもAO入試拡大の動き
  • 「猫の目入試」と呼ばれるほど入試制度がコロコロ変わる韓国
  • その他の国の実例(ドイツ・イギリス・シンガポール・中国)

 この章の中では台湾は国立・私立共に足並みのそろった大学入試改革であると称されています。繁星推薦と呼ばれる制度を導入し、大学入試改革に踏み切ることが出来たのは有力大学が連携することが出来たためであると述べています。

 また、台湾では推薦型入試・AO入試が1月に行われ、7月には「敗者復活戦」としての筆記試験があるということです。チャンスが2度あるのはうらやましいですね(笑)

 

 2020年、日本の入試が変わる

  • 一発勝負・一点刻み→多面的で総合的な判断へ
  • センター試験を廃止し、大学入学希望者学力評価テスト(仮)を導入する
  • 一点差による選抜ではなく、成績の段階別表示を導入
  • 選択式だけでなく、記述式を導入する
  • タブレットなどの端末を使い、コンピューターによる選択式の出題・解答(CBT, Computer-Based Testing)を導入
  • 高校で習う教科も変わる(公共、数理探究、歴史総合など)
  • 現行の入試はわずかな点差にこだわり、知識偏重で大学や社会で必要な学力を問うものになっていいないという批判
  • 混迷を極める大学入試改革
  • センター試験の現場
  • 社会の変化に先駆けたイノベーションを生み出す人材を育てるには、現在のような筆記試験偏重の入試を続けていては立ちいかないことを、多くの大学関係者は実感しているはずだ。という筆者の意見

 2020年まであと3年ですね。すでに東京オリンピック決定から4年経っていると思うと、時の流れの速さを感じます(のわりにオリンピックの準備進んでなくね)。「2011年にアメリカの小学校に入学した子供たちの65%はいまは存在していない職業に就く」といういたるところで見る予言がありますが、そういった社会において生き抜く人物を育てるためには現在の知識偏重型の入試ではダメだ!改革だ!という意見がついに採用されたということでしょうか。

 一方で大学入試改革を家庭環境による学力格差を広げるきっかけにしてはいけないという指摘も出ているようです。現行の学力テストでは親の所得や学歴がこの成績と相関するという分析もあるということですが、様々な体験や留学などをしている子の方が多面的入試では有利であり、家庭環境の差がペーパーテスト以上に影響するという指摘もあります。多くの人を納得させるような平等な選考を行うためにもまだまだ改革の内容で揉めそうだなという印象を受けました。

現場から始まる改革

  • 東大・京大・阪大で行われた推薦入試の取り組み
  • 「均質な学生」に危機感を覚える東京大学
  • 推薦で「とがった才能」が欲しい
  • 国立大入学者の3割をAO入試や推薦入試などの合格者にするという目標(優れた素質、能力のある学生を確保するのが目的)
  • AO入試組ほど優秀?  

 

現行の入試制度は多様性のある学生を確保できていないのか?

 つらつら、だらだらと本の内容を書いてきたんですが、本を通しての全体的な主張としては

 

「多様性のある学生を確保したいために大学入試を改革する必要がある!いまのペーパーテストでは多様性を確保できていない!」

 

という感じです。ここ最近、良く見ます。多様性ブーム。LGBT検定は4万越えだとか。インターネット界隈だけなのかもしれませんけど。とりあえず多様性は大事だ!って言っとけば何とかなるだろ見たいなのを感じるわけでして…

 

 表題に戻るんですが、今の入試制度で多様性のある学生を確保できないという主張は実際に正しいんでしょうか? 例えば、偏差値エリートの象徴として挙げられるみんな大好き東京大学ですが、現在でも年間3,000人弱の学生を毎年入学させており、その3,000人全員が均質な、同じような学生かと言われるとそんなわけないと思うんです。事実、幸運なことに東大生の友達が何人かいるんですけど、みんな個性的だし、十分に「多様性がある」と僕は思うんです。

 そして僕はちょっと思うんですが、

 

 「多面的な入試」はペーパーテストよりも多様性が確保できるってホントなのか?

 

 だって、多面的な入試は面接とか高校の実績とかいろいろとみるわけなんですが、ペーパーテストは純粋に点数しか見ないんですよ。そいつがどんなやべー思想を持っていようが、聖人であろうが、根暗で内向的でボッチ気質であろうが、そいつがボランティアをしてようがしてまいが、そんなことは全く関係ないわけです。成績がすべてなので。ということはそれだって多様性があるし、多様性の確保と言えるのでは?と僕はひねくれてるので思います。

公教育は誰のためにあるべきか?

 『人間にはそれぞれ才能があって、その優れた才能を伸ばすべきが教育であるはずなのに、今の型にはめる教育はそれを殺してしまっている!』というような主張は非常に魅力的でありますし、これが魅力的なのは何者にもなれなかった(僕も含まれるとおもいますが)人にとって見れば、「自分には特別なモノがあるはずなのに、こんな人生になっているのは自分が悪いわけじゃないんだ。教育のせいなんだ」と思うことができるからなんじゃないかと僕は思います。

 

 でもたぶん、そういう才能がある人、才能で生きていける、好きなことで生きていけるのってほんの一握りなんですよ。

 

 そういった、才能のない、恵まれた環境にも生まれなかった人間にも社会で生きていけるようにするのが、公教育の役割であり、だから僕は公教育とは99%の凡人のためにあるべきだと感じます。

 

 あと、そういう一握りの、とびっきりの才能を持った人間は教育の助けを借りずとも、今の教育制度の中でも勝手に自らの才能を伸ばすべく、成長できるんじゃないでしょうか。

 

「頑張ればなんとかなる」確率が高いのは現行の入試制度

 大学の入試改革の具体例とか見てると、なんかスーパーマンみたいな人材をすごく求めているような印象を受けるんです。〇〇大会で入賞!とかスポーツができる!優れた芸術技能を持つ人を入れることがよくて、それが多様性だよね、みたいな感じです。でもその中で、ある程度の勉強はできないと、大学の勉強にはついていけないから、まぁ勉強も頑張ってねw というスタンスを選ぶ側の大学からは感じるんですが…

 そんな奴コロコロ出てくるわけない

 いや、出てこないですよ。コロコロと。そんな奴。まして、地方の一般家庭からは。偏差値主義を嫌う人は努力至上主義をも嫌う傾向にあるとは思いますが、努力で何とかなるならまだそっちの方がまだ、平等ではないですか? 「昔ならねー、勉強さえできていればいい大学行けたんだけどねー、今は無理だよね…やらないといけないこと、たくさんあるもんね…」みたいな会話が20年後、30年後聞かれるようになるとしたら、とても悲しいことです。僕のような凡人が大学に行く道は閉ざされてしまうかもしれません。

 「頑張ればなんとかなる」というのはまだ希望のある幻想ですが、「頑張ってもなんともならない」というのは救いようのない絶望ですし、この大学入試改革は「頑張ることくらいしかできない」ような人間の可能性を閉ざしてしまうのではないでしょうか。

現行の入試制度の全てがすぐれているわけではない

 もちろん、今の制度がすべて優れているわけではないと思います。本当に学校で学んだことが社会で生かされているのか、と問われれると、どうなんだろう、という感じですし、塾に行けるような家庭の子供と、行けない家庭の子供に差があることや、都市と地方の格差など、是正すべき点は多々あるとは思います。

 ですが、そうした点を見てもまだ、今のほうがマシなのではないか?と僕はこの本を読んで思いました。

 すごい長く、とりとめのない文章になってしまったんですが、今回はここまでです。20年後、30年後に日本社会がどうなっているのか、大学入試改革の評価は高評価なのか、悪評価なのか。ということを楽しみに人生を送りたいと思います。

 

今日の鬱:昼寝したら夜眠れなくなった。(1.2鬱)

*1:地方の生徒にも難関大学へ入学する機会を広げようと導入された制度。どの高級中学も各大学の募集枠に1~2人を推薦できる。大学による選抜は高級中学での成績をもとに行う)